ホーム 植物のお話

オオナルコユリ

和名:大鳴子百合  ユリ科  ナルコユリ属  多年草
  鳥取県:数は少ないが絶滅危惧種ではありません  分布:北海道から九州の山地 平成25年7月1日
山でナルコユリを大きくしたような植物を見つけた。長さは1mを越えて全体も大きく、ナルコユリよりも茎が太い。調べるとオオナルコユリだ。

地上から立ち上がった茎は、葉の付いた部分から弓状に曲がる。茎先の葉の幅はそう広くないが、根元側の葉はナルコユリに比べ幅のある先の尖った楕円形である。根元側の葉の長さは30cmになることもある。

オオナルコユリの同定だが、山には年を経て大きくなったナルコユリと、オオナルコユリの若い小さな株もあり、正確に同定するには、花を切り開いて雄しべに毛が生えているか確認する必要があるようだ。

私はそこまで専門的な知識もないし、まして山奥に顕微鏡を担いで行けない。ナルコユリはここまで大きくならないのでオオナルコユリとした。

新芽は甘くヌメリもあって、山菜として一級品と言われ、根茎は「黄精」と呼ぶ生薬として利用されてきた。ただ繁殖力も弱く、生長も非常に遅いので、数も少なく見ることは希である。
左:鳴子のように花が多数付いている。葉は互生で、葉の根元から花柄が出て、その花柄の枝分かれした先に花が付く。株が小さいと、花柄に付く花の数が少ないようだ。


右:花は上下が緑で、途中は緑がかった白だ。花は筒状になっていて、先だけが開く。
普通オオナルコユリは群落を作らず、1ヵ所に数本程度しか生えていない。

写真は私が知っている唯一の群落。群落と言ってもたった18本だけ。よほど条件が良い場所なのだろうか。
上の群落より標高の低い所では、すでに花期が終わりに近づき、最後の花が開く所だった。開花からしおれていく姿がよくわかる。 珍しく花にピントが合った。いつもピンボケが多いので嬉しい。見ると、現地では気付かなかったが、細い蜘蛛の糸が写っている。 ※写真をクリックすると拡大表示されます。
左:芽吹いたオオナルコユリ。茎は丸く、少し青みを帯びた色をしている。


右:群落の中で一番太い株。太さは親指ほど。生育が遅いので、ここまで育つのに何年掛かるのだろう。二十年、いや三十年だろうか。
左:芽が伸びてサヤ状の部分が残る。上の新芽からこれ位までが食べ頃か。新芽を摘むとその年は芽を出さず、翌年細い芽を出すらしい。

実は私はまだ食べたことがない。育つのに10年以上かかると言われれば、食い意地が張った私でも、可愛そうなので食べたくない。


右:葉が展開しだすと、すでに葉の間に小さな花が準備されている。
8月末の雨の日、傘をさして山を歩いたら、実の重さか雨のせいか、オオナルコユリが斜面からぶら下がっていた。おかげで全体の姿が良くわかる。

実が多く付いていて、この中に複数の種が入っている。オオナルコユリは翌年に発芽をせず、数冬を越してから発芽するものもあり、発芽しても他の植物との競争で消えていくらしい。そのせいか周囲に子株は見られない。

この実は熟すと黒くなるそうだ、食べられるのか、また実を食べて種を拡散する動物がいるのか興味がある。
群落を撮影しているとマルハナバチが来た。ハチが高速で動くのでぶれた写真となる。ハチは右にある先の開いた花には全く興味が無く近づかない。先が少し開きかけた花をこじ開けて入っていく。 見ていると花に頭と胸部を入れ、腹部の途中まで入り込んだ。出てくると後ろ足で花粉をしごくような仕草を見せる。
先程の花が終わると、他の株の先が開きかけた花に移った。この後移った他の花も先が開きかけのものだった。ハチにとって、蜜の吸い頃は一株一花らしい。 この時はハチばかり見ていて気付かなかったが、右の途中に穴の空いた花は、どんな昆虫が穴を開けたのだろうか。
比較にミヤマナルコユリの写真。ミヤマと言っても低い山にも生えていて、結構数も多い。全長は短かく茎はずっと細い。葉は楕円というか横幅が広く丸さが目立つ。 葉の裏は白っぽく、葉は互生。花柄は葉の付け根から出るが、葉に沿って左右に分かれる。これはミヤマナルコユリだけの特徴で、ナルコユリもオオナルコユリも下に垂れて左右に分かれない。
平成23年6月、登山道脇に生えていたオオナルコユリ。まだ先の葉が展開中だ。

これ以後、いつも通りがけに探すが、登山道維持のため刈り込んだのか、鹿が食べたのか、この場所で姿を見ることはない。植物に興味のない人から見れば、単なる笹みたいな雑草なのだろうか。

山の関係者に「これはオオナルコユリという成長速度のとても遅い植物です。」と教えれば、かえって他の場所で数が減るだろう。何も言わず放っておくのが良いと思う。
平成25年10月7日、山に登りオオナルコユリを見た。実は黒く熟していたが、多くの株は実が落果していた。 試しに食べてみたが、甘味はほんの僅かで、少し薬品のような味がして吐き出した。毒はないと思うが、この実をどんな動物が食べるのか。
ホーム 植物のお話